海外送金スキームと税務判断の落とし穴
― 元国税職員、そして税理士として思うこと ―
2026年3月5日の日本経済新聞は、香港への送金を利用した所得隠しの問題を報じました。全国の企業74社に対し、重加算税を含め約13億円の追徴課税が行われ、所得隠し額は30億円を超えたとされています。
手口は比較的単純です。企業が「海外情報収集費」などの名目で香港口座へ送金し、その資金が手数料を差し引かれたうえで日本へ還流するというもの。国税当局はこれを架空経費として認定しました。
このニュースを見て、私は元国税職員として、そして現在税理士として、いくつか強く感じることがありました。
目次
元国税職員として見える「発見される構造」
まず率直に言えば、このスキームは決して高度なものではありません。むしろ税務調査の現場から見ると、発見されやすい構造です。
海外口座への送金、同一のコンサルタント、同様の名目経費。こうした共通点があると、税務当局の情報分析ではすぐに「ネットワーク」として浮かび上がります。
近年の税務行政は、単発の企業を見るのではなく、スキーム単位で把握する傾向が強くなっています。
つまり「この会社が怪しい」という見方ではなく、
- 同じ業者を使っている
- 同じ送金パターン
- 同じ国への資金移動
こうした情報が重なった時点で、複数企業が一斉に調査対象になる可能性が高まります。
今回74社にまで広がった背景には、こうした税務当局の分析手法があります。
税理士として感じる「判断の脆弱性」
この事件の本質は、脱税の巧妙さではないと思います。
むしろ逆で、「あまりにも単純だった」という点です。
多くの中小企業は、海外スキームに対して十分な判断材料を持っていません。
例えば
- 海外コンサルタントの提案
- 節税スキームの紹介
- 知人経営者からの口コミ
こうした情報をきっかけに、「みんなやっているなら大丈夫だろう」という心理が働いてしまうことがあります。
しかし税務の世界では、「みんなやっている」は安全の根拠にはなりません。
むしろ同じスキームを使う企業が増えるほど、税務当局にとっては発見しやすくなるのです。
税理士として感じるのは、こうした判断の脆弱性です。
高度な脱税というより、情報の非対称性から生まれるリスクと言えるでしょう。
本当に重要なのは「説明できる経費か」
税務調査の現場で最も重視されるのは、実はシンプルなポイントです。
それは
「その経費は説明できるか」
という一点です。
- 何のための支出なのか
- 誰に対して支払ったのか
- 実際にサービスは提供されたのか
これが合理的に説明できなければ、海外であろうと国内であろうと経費として認められません。
今回のケースも、突き詰めればこの問題です。
税務は複雑に見えることがありますが、基本原則は意外なほどシンプルです。
そしてその原則を外れたスキームほど、長期的には大きなリスクを抱えることになります。
元国税職員として、そして現在税理士として言えることは一つです。
「うまい話」よりも「説明できる取引」を選ぶこと。
それが企業を守る最も確実な税務対策なのだと思います。
【編集後記】
あ~目標までに申告書の作成終わらんかった・・・