宗教法人の課税関係と税務調査の難しさ
「非課税」と「検証可能性」は別問題である
宗教法人は「税金がかからない」と語られることが多い。しかし実務の視点で見ると、その理解は正確ではない。宗教法人には特有の課税構造があり、さらに税務調査の場面では独特の難しさが存在する。今回は、①課税構造、②相続税との交錯、③税務調査の実務的難点、の三点から整理する。
目次
宗教法人の課税構造 ― 非課税の範囲と限界
宗教法人は宗教活動に伴う収入、すなわちお布施・祈祷料・賽銭等については原則として法人税が課されない。
これは宗教活動そのものが収益事業に該当しないためである。
一方で、駐車場経営や不動産賃貸、物販などの「収益事業」を行えば、その部分については通常の法人と同様に法人税の課税対象となる。
したがって、「宗教法人=無税」という理解は誤りであり、正確には「宗教活動部分は非課税、収益事業部分は課税」という区分構造にある。
さらに重要なのは、宗教法人が非課税であっても、僧侶個人が法人から給与や役員報酬を受け取れば、その個人所得には所得税が課されるという点である。
仮に法人収入の一部が適正に計上されず住職個人に帰属すれば、給与課税や雑所得課税の問題が生じ得る。非課税なのは法人の宗教活動部分であって、個人の所得まで免税されるわけではない。
相続税との交錯 ― 葬儀費用控除の立証問題
実務で問題となりやすいのが、葬儀のお布施と相続税の葬儀費用控除の関係である。例えば、実際には30万円のお布施を支払ったとしても、相続税申告書に40万円と記載された場合、何が正しいのかという問題が生じる。
相続税は申告納税方式であり、控除を主張する側に立証責任がある。しかしお布施は任意金額であり、領収書が発行されないことも多く、現金手渡しが一般的である。戒名の位ごとの「相場」は存在するが、あくまで慣行上の目安に過ぎず、法的な定価ではない。
そのため税務署は、相場との乖離、出金経路、他費用との整合性などを総合的に検討することになる。著しく過大でない限り全面否認は容易ではないが、合理的説明ができなければ一部否認という処理もあり得る。ここは法理論というより、証拠評価の世界である。
税務調査の難しさ ― 入口より出口
宗教法人の税務調査が難しい最大の理由は、宗教活動収入が現金・任意額・匿名性を帯びている点にある。賽銭やお布施は外部証憑が乏しく、第三者が金額を直接検証することは容易ではない。
もっとも、「検証不能」というわけではない。税務実務では、入口(受領額)よりも出口(資金使途)から整合性を確認する。預金残高の推移、資産増減、住職個人の生活費とのバランス、役員報酬の妥当性など、資金の流れ全体から実質を把握するアプローチが取られる。
宗教法人部分だけを見れば税額に直結しにくく、調査優先度は下がりやすい。しかし法人と個人の資金が混同していれば、課税論点は個人側に波及する。結局のところ、問題の核心は「非課税」そのものではなく、区分経理とガバナンスの設計にある。
宗教法人の課税関係は単純ではない。宗教活動は非課税であっても、収益事業は課税され、個人所得も当然に課税対象となる。そして、現金中心という構造は税務調査を難しくするが、完全なブラックボックスを意味するわけではない。
制度の信頼性を支えているのは、税制優遇そのものではなく、適正な会計処理と統制環境である。宗教法人の課税問題は、租税法というよりも、証拠評価とガバナンスの問題なのである。
【編集後記】
2日間、税務調査の予定が1日目の午前中だけに。税務調査は継続されるがこれは吉なのか凶なのか?いずれにせよ事務所で仕事ができるのは有難い。