AIが引き継ぐ課税庁のクセ――泉絢也教授の講義で腑に落ちた「学習データの偏り」
昨夜受講した東洋大学・泉絢也教授によるセミナー「AI時代の税理士はどうあるべきか」。
その中で泉教授が指摘された論点のひとつに、「AIが学習する元データそのもののバイアス(偏り)」という極めて本質的な問題がありました。泉教授も私も元税務職員だから分かる話。
現在、税務行政でも調査対象の選定や分析にAIの導入が進められています。しかし、AIは無から客観的な正義を導き出す神様ではありません。過去の膨大なデータを学習してパターンを見つけ出す仕組みです。
では、その「学習元のデータ」とは一体何でしょうか? それは課税庁が過去に行ってきたいわば「調査実績の蓄積」です。ここに最大の盲点があります。
目次
「取りやすいところ」を学習し続けるループ
税務調査の実務を経験している税理士なら誰もが肌感覚で知っていますが、現場の調査実績データにはもともと強力なバイアスがかかっています。
- 立証が容易で手離れが良い論点(交際費の私的流用疑い、役員賞与認定、売上計上時期のズレなど)
- 資料収集が容易な業種や取引形態(現金商売、定型的な下請構造など)
- 「実績(追徴税額)」を上げやすい大口事案や富裕層
- 期間損益
限られた人員と調査日数の中で成果を求められる以上、どうしても「取りやすいところ」「立証しやすいところ」に調査が偏るのは行政組織としての必然でした。
問題は、その「人間の偏り」をそのままAIに学習させている点にあります。
「取りやすいところから取ってきた過去データ」をAIに食べさせれば、AIが弾き出す「不自然な異常値」や「高リスク案件」も、必然的に過去に取られたパターンと同じ特徴を持つ事業者になります。
その結果としてAIが選定し、調査官が臨場して追徴を取り、それがまた新たな「実績データ」としてAIに再学習される――。 これはいわば、バイアスの自己強化ループ(確証バイアスの再生産)です。
統計的な「異常値」と、実態の「不正」の混同
このループが回ることで最も不利益を被るのは、「過去の型にはまらない、新しいビジネスを展開している真面目な事業者」です。
- 従来と全く異なる収益構造を持つスタートアップ
- 粗利率が急激に変動する新興テックビジネス
- 先行投資として特殊な外注・広告スキームを組んでいる企業
過去の「取りやすいパターン」の枠組みしか知らないAIから見れば、こうした革新的なビジネスモデルによる数値の乖離は、すべて「疑わしい異常値」と判定されてしまいます。
「過去に例がない=不正の兆候」とアルゴリズムが決めつけ、機械のスコアリングを背負った調査官がやってくる。これは納税者にとって、目に見えない不条理な圧力以外の何物でもありません。
アルゴリズムのバイアスを解体するのが、これからの税理士
泉教授のお話を伺いながら確信したのは、今後AI調査が本格化する時代において、税理士に求められるのは「データバイアスを法的に解体する力」だということです。
「AIが異常値を示している」「過去の類似データから見て不自然だ」と迫られたとき、
- 「それは単に貴庁の過去の是正パターンに酷似しているだけで、当社の事業実態・取引の合理性とは無関係である」
- 「統計的な相関関係と、税法上の課税要件該当性は全く別物である」
という事実を、客観的な証拠と法律論で毅然と突き返す必要があります。
AIは過去をなぞることは得意でも、生きたビジネスの文脈や個別の事情までは理解できません。 「機械がそう言っているから」という空気に呑まれず、データに潜む偏りを見抜き、納税者の正当な経営実態を守り抜く防波堤となること。
泉教授の講義は、これからの税理士が戦うべき「本当の土俵」を教えてくれたように思います。
【編集後記】
泉教授を見て、あっ!!昔、法人課税にいた人だと、見たことあるなーって思いました。師匠である酒井先生を彷彿させる熱いセミナーでした。