紫と緑 ― 税務の現場で刻まれた色の記憶
目次
調査審理課という特別な3年間
私は26年間の税務署・国税局勤務の中で、関東信越国税局の調査査察部調査審理課に3年間在籍していました。
この課の役割は大きく2つあります。1つは、いわゆる大規模法人から提出された申告書が税法に照らして適正かどうかを精査すること。もう1つは、現場の調査担当者が実施した税務調査が適法であったかをチェックすることです。
どちらも高度な判断が求められる業務であり、条文の読み込み、判例の理解、そして事実関係を法令に落とし込む力が必要でした。税務署ではなかなか得られない、深く本質的な経験を積ませてもらったと感じています。
今の自分が税理士として仕事をしていけているのは、間違いなくこの3年間の積み重ねがあったからです。ちなみに、この課への配属は長年自ら希望していたもので、「いつか税理士になる」という思いがその原動力でした。
緑と紫に込められた意味
調査審理課での業務には、ちょっとした“文化”がありました。
それが、申告書チェックの際に使う色鉛筆の色分けです。担当者である一般職員は「緑」、そして管理職は「紫」。この2色が、チェックの責任の所在や視点の違いを自然と表していました。
緑は実務者としての確認、紫はその上の判断や統括。
単なる色分けではありますが、その一本一本の線には責任が伴い、自然と背筋が伸びるような緊張感がありました。
他の国税局で同じ運用があるのかは分かりませんが、少なくとも関東信越国税局ではこのルールが当たり前でした。今思えば、この色の違いは単なる役職の違いではなく、「見るべき視点の違い」を象徴していたのかもしれません。
今も続く“緑のチェック”
調査審理課を離れ、その後税理士として独立してから、すでに12年以上が経ちました。それでも私は今なお、書類のチェックをする際には緑のペンを使っています。
理由はシンプルで、「まだ紫を使うだけの力はない」と自分で思っているからです。もちろん経験は積んできましたし、一定の判断はできるようになってきました。それでも、あの頃に見ていた管理職の視点や判断の重みを思い返すと、自分はまだ道の途中だと感じます。
だからこそ、今は緑でいい。現場の目線を忘れず、一つひとつ丁寧に確認していく。その積み重ねの先に、いつか自然と紫のペンを手に取れる日が来るのかもしれません。
大したことのない昔話かもしれませんが、私にとっては今の仕事の原点となっている、大切な記憶です。
【編集後記】
もう3月が終わる