消費税1%への引下げ案――税理士事務所に押し寄せる実務負担
政府が、飲食料品の消費税率を現在の8%から1%へ引き下げる案を示したと報じられました。実施されれば、物価高に対応するための大きな制度変更となります。
しかし、税制は税率を変更すれば終わり、というものではありません。実際に現場で経理処理を行う事業者や、それを支援する税理士事務所には、相当な負担が生じることになります。
目次
事業者の経理処理はどう変わるのか
現在、飲食料品の多くには軽減税率8%が適用されています。これが仮に1%へ変更される場合、売上や仕入れの税率設定を見直す必要があります。
レジや販売管理システム、請求書発行ソフト、会計ソフトなど、さまざまなシステムへの対応が必要になるでしょう。特に、飲食店であれば、店内飲食とテイクアウトの区分、加工品や酒類の取扱いなど、制度の詳細によって判断が分かれる場面も考えられます。
また、売上だけでなく、仕入れ、返品、値引き、割戻し、売上計上時期と入金時期が異なる取引などについても、適用税率を正しく判断しなければなりません。インボイス制度との関係や、請求書・領収書への記載方法も確認が必要です。
会計ソフトの改修そのものは、基本的に各ベンダーが対応することになるでしょう。
しかし、ソフトが改修されたからといって、事業者の経理処理が自動的に正しくなるわけではありません。新しい税率をどのように設定し、どの取引に適用するのか。最終的には、現場の判断が重要になります。
税理士事務所に求められる制度理解と顧問先対応
税理士事務所にとって、制度改正への対応は、単に改正内容を勉強するだけでは済みません。
まずは、制度の内容を正確に理解し、事務所内で処理方法を統一する必要があります。
さらに、顧問先の業種や経理体制に応じて、説明の仕方も変えなければなりません。自社で経理処理を行っている会社もあれば、領収書をまとめて税理士事務所へ渡している事業者もあります。制度に詳しい事業者ばかりではありません。
「何を1%にすればよいのか」「請求書の表示はどうするのか」「会計ソフトの設定は変更したのか」「過去の取引を修正する必要はあるのか」など、さまざまな問い合わせが予想されます。
税理士事務所では、制度の確認、スタッフ研修、会計ソフトの改修内容の確認、顧問先への説明、入力内容のチェックまで行うことになります。しかも、その対応に対して、必ずしも新たな報酬が発生するわけではありません。
税制改正は国の制度ですが、その運用コストの一部は、実際には事業者や税理士事務所が負担することになります。
4月1日施行と3月決算法人の決算業務が重なる不安
さらに気になるのが、仮に4月1日から施行される場合のスケジュールです。
4月といえば、個人事業者の確定申告が終わった直後です。所得税や消費税の申告業務を終え、ようやく通常業務に戻ろうとする時期に、新しい消費税制度への対応が始まることになります。
加えて、税理士事務所にとっては、3月決算法人の決算・申告業務が本格化する時期でもあります。決算資料の収集、試算表の確認、消費税の課税区分のチェック、申告書の作成など、通常でも業務が集中します。
そこへ、新制度の内容確認、会計ソフトの設定変更、顧問先への説明、経理処理のチェックが重なります。制度の詳細が直前まで明らかにならなければ、事務所としても準備のしようがありません。
税制は、法律や制度を作るだけでは機能しません。現場の事業者や税理士事務所が、正しく理解し、実際の取引に落とし込めて初めて機能します。
減税の方向性とは別に、制度変更によって現場にどれだけの負担が生じるのかも、十分に考慮していただきたいところです。早期の情報公開と、現実的な準備期間の確保を望みます。
※本稿は報道された制度案を前提としたものであり、対象品目や適用時期などの詳細は、今後の法案・政省令等によって変更される可能性があります。
【編集後記】
やっと我が家の稲刈りが終わりました(外注なんだけどね)秋の長雨で収穫時期が遅れて品質が心配だけど、これで農作業から少しだけ解放されます(^^♪