「鴻池運輸」脱税事件の一考察

事件の概要

物流大手の「鴻池運輸」が、大阪国税局から約3億円の所得隠しを指摘され、重加算税を含め約1億円を追徴課税されたというニュースが報じられました。同社はこの課税を不服として国税不服審判所に審査請求をしています。事件の背景には、茨城県内の支店の元課長らが架空取引によって会社資金を不正に流出させたという事案があり、彼らはすでに逮捕・有罪判決を受けています。流出額は約3億円。つまり、会社が直接不正を主導したわけではないにもかかわらず、「法人としての所得隠し」と判断されたことが、今回の争点になっているわけです。

争点は2つある

今回の事件を税務の観点から見ると、主に2つの争点が浮かび上がります。
1つめは、「元課長らの行為が法人の行為とみなせるのか」という点です。
2つめは、「損害賠償請求権の発生時期をいつと認定するか」という、いわゆる“異時両建・同時両建”問題です。

まず1つめ。重加算税を賦課するには、国税通則法第68条に定める「納税者が仮装または隠蔽を行ったこと」が要件となります。ここで言う“納税者”が法人である場合、その法人の意思決定に関与する者――例えば経営者、または経理責任者など――の行為が法人の行為とみなされることがあります。

しかし、今回は支店の元課長。経営判断を担う立場とは言い難く、会社としては「一従業員による不正であり、法人として隠蔽の意思はなかった」と主張する余地があります。税務調査の現場でもこの点は非常に悩ましいテーマで、組織の規模や内部統制の仕組み、役職者の権限の範囲などによって判断が分かれるところです。

次に2つめの論点、「損害賠償請求権の発生時期」です。
架空取引により資金が流出した場合、会社としては損失が生じたと同時に、その加害者に対して損害賠償請求権が発生します。税務上は、この請求権を“収益”として認識することがあり、損失と収益を同時に計上する、いわゆる「同時両建」処理を行います。

一方で、実際には会社が不正に気づくまで時間がかかるケースが多く、調査の結果初めて発覚することも珍しくありません。この場合、会社としては「認知した期」において損失を計上する「異時両建」となります。

ただし、税務当局は「内部統制が適切に機能していれば早期に発見できたはず」として、会社の過失を理由に“損害発生時”に遡って課税を行うことがあります。つまり、「知らなかったこと自体が問題」とされるのです。今回の大阪国税局の判断も、このロジックに基づいたものではないかと推測されます。

わずかな報道内容からすべてを読み解くことはできませんが、鴻池運輸が審査請求を行っているという事実からも、かなり強気な課税がなされた可能性があります。大阪国税局らしい、厳格な姿勢とも言えるでしょう。

この事件は、企業のガバナンスと税務判断の境界を問う、象徴的なケースになりそうです。
もし裁判まで発展すれば、法人の内部統制と重加算税賦課の関係について、より明確な基準が示されるかもしれません。
今後の動向に注目です。――頑張れ、「鴻池運輸」。

【編集後記】

あくまでの個人的見解であることを、ご理解してお読みください。

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