「国保逃れ」問題から考える、制度活用と“実態”の重要性
目次
なぜ「国保逃れ」が問題になったのか
個人事業主やフリーランスは、原則として国民健康保険や国民年金に加入します。一方、法人の役員や従業員として一定の要件を満たせば、健康保険・厚生年金などの社会保険に加入することになります。
社会保険料は、原則として事業主と本人が折半して負担します。そのため、国民健康保険料や国民年金保険料の負担が重い人に対し、一般社団法人などの役員に形式的に就任させ、社会保険へ加入させる仕組みが広がっていました。
厚生労働省の調査では、こうした仕組みを提供していた38事業所について、合計1万1,610人に業務実態がないことが確認されました。今後、資格の取り消しや、国民健康保険料・国民年金保険料の遡及請求が行われる可能性があります。
また、役員に就任させるだけでなく、個人事業主を勤務時間が極端に短い正規従業員として雇用する手法も確認されています。制度上の加入資格を満たしているように見せても、実際の勤務や職務が存在しなければ、社会保険の適用は認められません。
マイクロ法人の活用と「国保逃れ」は何が違うのか
この問題を考える際、いわゆる「マイクロ法人」の活用と混同しないことが重要です。
個人事業主が別に法人を設立し、法人として実際に事業を行い、代表者が役員として職務に従事しているのであれば、社会保険に加入すること自体は制度に沿ったものです。社会保険料の負担を考慮して法人化を検討することも、それだけで直ちに違法・不適切というわけではありません。
ただし、今回の問題は、単純に「何もしていない人を役員にした」という形だけとは限りません。例えば、月に1回程度、何らかの書類を作成するなど、外形的には一定の業務や活動実態があるように見せているケースも考えられます。
しかし、書類が存在するからといって、それだけで実態が認められるわけではありません。その書類は法人の事業に本当に必要なものなのか。誰から依頼され、何の目的で作成されたのか。役員としての職務に見合う内容なのか。法人の事業活動に継続的・実質的に関与しているのか。こうした点を総合的に確認する必要があります。
つまり、問題は「業務がゼロかどうか」だけではなく、その業務が法人の事業に必要な、役員としての実質的な職務といえるかどうかです。
最後に問われるのは、やはり「実態」である
税務調査の現場でも、契約書や請求書、領収書などの書類が整っているだけで、取引の実態が認められるわけではありません。書類が作成された経緯や、実際に誰が何を行ったのか、取引先との関係や資金の流れなど、周辺事情を含めて判断されます。
社会保険の加入資格についても、形式だけでなく、実際の勤務状況や職務内容が重視されます。月1回の業務であっても、それが法人の事業に必要な役員業務であり、実際に職務を果たしているのであれば、直ちに問題となるわけではありません。
一方で、社会保険に加入することだけを目的として、後から書類を作成したり、名目上の職務を設けたりしているのであれば、制度の趣旨から外れる可能性があります。
「社会保険料を抑えるために法人を作る」のか。それとも、「実際に法人として事業を行った結果、社会保険料の負担が変わる」のか。この違いは大きいものです。
制度は、正しく活用すれば事業者の選択肢を広げてくれます。しかし、形式を整えることばかりに目を向け、実態を置き去りにすれば、後になって保険料の遡及請求など、大きな負担を招くことになります。
【編集後記】
クライアント「マイクロ法人を使って社会保険料を軽減することは違法ですか?」
と聞かれ
「社会保険労務士でもないし、違法かどうかは司法が判断する話で税理士では回答できない!!」
と答えたところ
「そんなことも回答してくれない税理士は解約します!!」
と言われ顧問契約を解約されたのは私です。