「ことさら過少申告」と重加算税の関係を考える

「ことさら過少申告」とは何か

税務の現場で時折耳にする「ことさら過少申告」。

一般にはあまり馴染みのない言葉ですが、もう少し分かりやすく表現すれば「つまみ申告」といった方がイメージしやすいでしょう。

つまり、確定的な意図のもとに真実の所得金額の大部分を意識的にごまかし、意図的に少ない金額を記載した申告書を作成・提出する行為を指します。もちろん、このような行為が問題であることは言うまでもありません。

問題は、この「ことさら過少申告」が重加算税の賦課要件を満たすかどうかという点にあります。

重加算税賦課をめぐる二つの考え方

重加算税は、納税者が課税要件事実を「隠蔽」または「仮装」するなど不正な手段を用いた場合に、過少申告加算税より重い制裁を課す制度です。
しかし、「つまみ申告」に対して重加算税を適用できるかについては、学説上「消極説」と「積極説」が対立しています。

消極説は、重加算税を賦課するには申告書の提出とは別に、隠蔽・仮装の行為が必要であるとする立場。一方の積極説は、重加算税の趣旨が徴税の実効を確保する点にあることから、隠蔽・仮装の結果として過少の申告書が提出されていれば、それ自体で賦課要件を満たすと考えます。

実務家としての立場と現場の実感

私自身、税務署勤務時代に長く法人税調査を担当してきた経験から、基本的には「隠蔽・仮装の事実がなければ重加算税は賦課できない」という消極説に立っています。

実際、かつて勤務実態のない架空人件費を把握した案件がありましたが、その裏付けとなる隠蔽・仮装の証拠書類が一切存在しませんでした。上司の上司から「隠蔽仮装を指で指せ」と詰め寄られても、示すものがない以上、過少申告加算税しか賦課できなかったという苦い経験があります。

これに重加算税を賦課しないなんて、なんの為の税務調査なんだと憤ったことを覚えています。

ことさら過少申告」という言葉は法人税の世界では馴染みが薄いものの、所得税など個人申告の現場では避けて通れないテーマです。

近く、重加算税の賦課をめぐってこの論点と向き合う機会がありそうなので、整理の意味も込めて筆を執りました。

【編集後記】

某国税当局には大きな借りがあるので、今度はぎゃふんと言わせたいと密かに心の中で思いつつ文章にしたらダメやん。

※「裁判例からみる加算税」酒井克彦先生著を参考にさせていただきました。

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